大阪高等裁判所 昭和50年(行コ)12号 判決 1976年1月27日
控訴人(原告) 門坂喜美子
被控訴人(被告) 大阪府北府税事務所長
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四五年三月六日付でした、不動産取得税を六六二、三一〇円(ただし、昭和四九年九月一七日付で一部取消された後の金額)とする賦課決定処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人代理人の主張)
一、本件賦課決定処分は、現行の税務行政自身が非課税扱としているものを敢えて国民に不利益に変更するものであつて、地方税法七三条の二第一項の解釈を誤つたものである。すなわち、現在の自治省は離婚による財産分与に伴う取得財産に関する不動産取得税の取扱について昭和四二年自治大税務別科質疑回答(甲第一七号証)によつて非課税扱をしており、現に本件の場合でも原判決目録一7、8の不動産の取得について兵庫県灘財務事務所、同目録9の不動産の取得について三重県上野県事務所から、それぞれ一旦課税決定を受けたが後日控訴人の事情の説明によつてこれを取消している。
二、形式的に不動産の所有権の移転さえあればその原因の如何を問わず、特に法定の非課税とされる場合(地方税法七三条の三ないし七)を除き不動産取得税を賦課すべきであるとした最高裁昭和四八年一一月一六日判決(民集二七巻一〇号一三三三頁)は、譲渡担保に関するものであつて、共有物分割あるいは財産分与に関するものではない。不動産の譲渡担保の場合は対内的には担保権の性格を持つとしても対外的には完全に所有権が移転するものであることは学説、判例とも争いのないところであり、これに課税するのは当然であつて、本件にこれをあてはめるのは妥当ではない。
次に、行政裁判所昭和七年二月五日判決は、不動産の共有持分の取得も不動産取得税の課税要件としての「不動産の取得」に当るとしているが、右は当然のことをいつたものに過ぎず、控訴人は全ての共有持分の取得が不動産取得税の課税要件としての「不動産の取得」に該当しないと主張しているわけではない。控訴人の主張しているのは共有物の持分の移転のうちでも、本件のように、慰藉料あるいは将来の扶養としてのものではなく婚姻中の財産の清算としての財産分与、しかも実質的には控訴人とその夫との共有物の分割のためになされたものの場合には非課税扱にされるべきである、というにあり、現に自治省の扱いもそうなつているのである。
地方税法は右のような形式的な不動産の移転に担税力を見出しているのではなく、実質的な不動産の取得あるいは増加に対して担税力を見出しているのである。ちなみに、東京地裁昭和四五年九月二二日判決(判例時報六〇六号二八頁)は、「不動産の取得が婚姻中の財産関係を清算する趣旨で財産分与による場合には、それが夫婦の共有に属するものと推定される財産(民法七六二条二項)についてなされたものである限り、形式的に財産権の移転が行われることはあつても、当然の所有権の帰属を確認するに過ぎず、これによつて実質的に財産権の移転が生じるものではないと解するのが相当であるから地方税法七三条の二第一項の課税原因には該らないというべきである。」として現行の行政解釈を是認しているのである。
(被控訴人代理人の主張)
一、控訴人の右主張第一項のうち、自治省が離婚による財産分与により得た不動産の取得にかかる不動産取得税の課税について非課税扱いとする場合のあることの通達をしていることは争わないが、その余は争う。右通達は離婚に際し夫婦共同生活中に夫婦の協力によつて取得した夫婦共有に属すると推定される夫婦共通の財産の清算としての財産分与について非課税扱をする旨通達しているのみで、本件の場合はこれに該当しない。
すなわち、「離婚に伴う財産分与」の性質、内容としては、(1)夫婦共同生活中に夫婦の協力によつて取得した共通の財産の清算、(2)離婚有責配偶者の相手方への損害賠償、(3)離婚後の扶養料の三つを含むと解されるところ、夫婦共同生活中に夫婦の協力によつて取得した夫婦の共有に属するものと推定される財産について(1)の性質、内容の財産分与として不動産の移転が行われた場合においては、形式的には財産権の移転が行われても実質的には他の配偶者に属する潜在的所有権を確認するに過ぎないものとして非課税扱がなされることを上記自治省の通達は示したものに過ぎず、右(2)、(3)の性質、内容をもつ財産分与として不動産の所有権の移転が存する場合には実質的に不動産所有権の移転が生じたものとして課税の対象となることを否定するものではない。
二、控訴人の右主張第二項のうち、控訴人に対する本件各不動産の訴外門坂正人の共有持分の移転原因は夫婦共通財産の清算としての財産分与であり、実質的には共有物の分割である、との主張は否認する。そもそも本件各不動産は、控訴人と訴外正人夫婦が訴外亡門坂清助、同亡門坂多尾の各相続人として各相続によつて取得したものであり、右夫婦が夫婦共同生活中に夫婦の協力によつて取得した夫婦共有に属すると推定される財産には該当しない。右持分の移転は、実質的には、代物弁済又は売買若しくは交換と解するのが相当であり、不動産取得税の課税原因たる不動産の取得があることは明白であつて、不動産取得税の非課税の場合に該当せず、被控訴人の本件賦課決定に何らの違法の点はない。
(証拠関係)<省略>
理由
一、当裁判所も控訴人の本訴請求は理由なきものと認める。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(一) 原判決六枚目裏一〇行目の「形式的に、」から同一一行目の「原始取得」までを、「所有権移転の形式による不動産の取得」と訂正する。
(二) 原判決七枚目裏二行目の次に、
「自治省が離婚による財産分与を原因とする不動産の取得にかかる不動産取得税の課税について非課税扱とする場合のある旨の通達を発していることは当事者間に争いがないが、成立に争いのない甲第一七号証によれば、右通達は、夫婦の一方の名義となつている財産が実は夫婦共同生活中に夫婦の協力によつて取得した夫婦共通の財産であり、したがつて他の配偶者の所有権が潜在している場合であつて、財産分与が夫婦共通の財産の清算としてその配偶者の潜在的所有権を確認する場合に関するものであることが認められ、財産分与であれば全て非課税扱とすべきことを通達したものとは認められない。
ところで、原判決目録一の1ないし4、6の各物件は、もと控訴人の父亡門坂清助の所有であつたところ、同人が昭和三六年一二月二八日死亡したため控訴人、清助の妻多尾及び清助と多尾との養子であつた門坂正人の三名が相続し、多尾が昭和三七年五月一七日死亡したので多尾の右相続分を控訴人と正人とが相続して各二分の一の持分となつたことは前記認定(原判決引用部分)のとおりである。したがつて、右財産はいずれも控訴人と正人とが婚姻中にその協力によつて取得したものではなく、婚姻生活外の事由である相続によつて取得した財産である。しかも、実質的には夫婦共通の財産であるにも拘らず夫婦の一方の名義としたが故に他の配偶者が潜在的な持分を有していると目すべきものではない。それ故、右財産に関する本件財産分与は、夫婦共通の財産の清算という性質、内容を有するものではなく、共有持分の交換としての実質を有する共有物分割に該当するものであり、控訴人主張の通達の如く非課税扱をすべき財産分与には該当しない。すなわち、右物件についての持分の移転は、潜在的所有権の確認ではなく、まさに地方税法七三条の二第一項の『不動産の取得』に該当する、と解するのが相当である。
を加える。
二、よつて、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 北浦憲二 弓削孟 篠田省二)